どのような業種・業態の企業であっても、顧客との接点をマネジメントすることは、重要な経営課題の一つです。  時代の変遷とともに常に進化し続けてきた顧客接点ですが、デジタルやIT(情報技術)活用の潮流の中で、  今は革命的な変化が起こりつつあると言えます。例えば、アマゾン・ドット・コムに象徴されるインターネットによる  流通チャネルの飛躍的なプレセンスの増大、購買行動のリアルからネットへのシフトがあります。しかし、それだけではなく、  社会・市場全体として起こっている変化は、更に大きなものだろうと思われます。これに関して、以下に幾つかのポイントについて記述します。

 まず、顧客接点の種類が増加しています。インターネットにおける企業から顧客への情報発信の接点という観点だけでも、自社サイト、 ネット広告、ブログ/ネット記事、ソーシャルメディア、キュレーションメディア、比較サイト等、多数の媒体がひしめいています。 また、売場という接点では、アマゾンのような大手からニッチな業者まで多種多様なコマースチャネルや自社直販サイト等があります。 加えて、スマホやタブレット用のアプリもウェブとは一味違ったことができる接点としての存在感を高めています。
 一方で、リアルの顧客接点も増えています。例えば、コンビニエンスストアが取扱いサービスを増やし、銀行等の金融機関や携帯電話ショップが  様々な商品/サービスを取扱うようになってきたことも顧客接点の増加と捉えられます。  また、コンビニに対抗するミニスーパーや複数の保険会社の商品を扱う来店型保険ショップのような新種の流通チャネルもできています。  他にも、公共スペースではデジタルサイネージ(電子看板)のような新たな顧客接点も増えているのです。  今やネット、リアルの両面において、顧客接点は激増していると言える状況です。

 次に、企業側が積極的に顧客接点の新しい使い方を開発しているという背景があります。今、最も注目されているコンセプトの一つは、 オムニチャネルではないでしょうか。これについては色々に定義されていますが、実店舗とネットサイトを対立させるのではなく、 協働関係に位置づけて、どちらで買っても同じ顧客体験ができるように、双方を統合させた形で顧客に提示していくという企業側からの提案と言えるでしょう。 小売事業者からすれば、店舗であっても、スマホのアプリでも、パソコン(PC)からでも、どこから買って貰っても良いはずです。 企業側でそれぞれを連動させて、レコメンドや優遇策も実施しながら顧客の自社に対するロイヤリティーを高め、 その結果としてトータルの購買金額を引き上げようという販売手法とも言えます。また、一つの事業者ができる範囲は限られていることから、 多くのパートナー企業と組むことによって更なる効果を狙っていくケースも出てきています。 将来的な可能性の大きさからすれば、まだまだ初期段階と言えますが、中期的な潜在的能力は大きいと思われます。小粒な事例になりますが、 コーヒーチェーンのスターバックスがアメリカの直営店で運用しているアプリと店舗の連携例があります。アプリ経由で注文と決済を処理して、 店舗で受取るという単純なものですが、ユーザーには混んでいる時間帯でも注文時間や待ち時間が短くて済み、店側も混雑時の受注作業が省ける等の メリットがあります。2つの顧客接点を組み合わせて、新しい付加価値を創出している訳です。 タクシーを呼び出すアプリや、米ウーバー・テクノロジーズの展開する配車サービスも同様でしょう。 他にも、ネット接点の特性を生かして顧客に商品開発に参加してもらう取組み等がありますが、これは従来にない消費者との一体感を醸成することが 可能になります。

 オムニチャネルは、うまく設計できれば顧客の囲い込みや一人当たりの売上額向上への大きな効果が期待できます。また、ユーザーにネット経由で 種々の手続きをして貰えれば、企業側の事務量削減やコスト削減に直結します。これらの効用を積み上げることによって、競合優位性を確立することも できるでしょう。以下では、その手順例を掲げておきます。

 先ず、自社にとって利用を検討すべき顧客接点を洗い出すことから始めます。既存の接点はもちろん、新しく活用すべき接点を積極的に探して 検討することが肝要です。特に、自社で保有していない顧客接点、例えばソーシャルメディア(SNS)、比較サイト等は、見逃さないように注意が必要です。 また、リアルの販売接点も、銀行の支店や携帯電話販売店で保険を売り始めたりする時代なので、柔軟な視点から利用可能な接点を抽出しておきます。

 次には、どの顧客接点にどんな機能を担わせるべきかの検討を行います。ユーザーがネットで商品、サービスの情報を詳しく入手するようになる ことを前提にすれば、それに応じてリアルの販売接点の役割を変化させる必要があるかも知れません。

 また、手続きや購入などのアクションの多くがネット上で行われるとすれば、リアルの対人接点は違った機能や付加価値創出を担うことを考える べきでしょう。具体的には、消費プロセスにおける顧客体験を検討する分析手法が便利だと思います。
消費行動を考えると、顧客は、(1)商品に関心を持ち、(2)必要な情報を仕入れて、比較検討し、(3)どこで買うかを決めて、(4)実際の購買をし、 (5)商品を受け取り、(6)必要な場合はアフターサービスを受けるでしょう。
これに対して、企業視点からは、(1)~(6)の各プロセスにおいて、ユーザーにどの接点で、どのように働きかけ、やり取りをするのが、 ユーザーニーズを最大限に充足し、自社の優位性を構築することにつながるのかを、ゼロベースで設計してみるのです。
例えば、(1)(2)などは、自社の接点や既存の接点だけだと手薄だということが見えてきますので、新しい接点をどう取り込んでいくかが重要だと 気づくことになるでしょう。ゼロベースで再設計を行っていくと、ユーザーへの付加価値を最大化するにはどうしていくのが良いかを深く考えることになり、 差別化や優位性構築に向けての知恵、更にはビジネスモデル変革の着想へとつながっていきます。
注意したいのは、それぞれの顧客接点の徹底的な磨き込みがポイントになることです。例えば、インターネットでの接点を強化するために、スマホへの対応、 タブレットへの対応と次々に手を広げていく中で、画面の大きさ、インターフェイス等、それぞれのデバイス特性にあったウェブサイトの構築にまで 手が回っていないケースが多く見られます。一方で、ユーザーは一度使い勝手が悪いと感じたら、使わなくなってしまうものです。
市場動向を注視し、自社の状況を勘案しながら、踏み込んで行きましょう。