今回から3回にわたり、野村総研が2015年11月に公表した「生活者1万人アンケート調査」による消費行動の変化についての調査レポートから、 ポイントと思われる事象に着目して、私見を交えた記事を以下に紹介します。

 一般に日本人は、20年以上続いたデフレで消費をしなくなったと言われていますが、現実には十分に費用支出していると思われます。 例えば2012年の夏に行われた同調査では、母集団の平均世帯年収は、1997年の713万円から2012年には583万円と実に2割近く落ちこんでいました。 一方で、1人当たり消費支出額(内閣府調査)は2001年が221万円、2010年は216万3000円で、わずか2%の減少に留まっています。 消費支出がピークだった2007年の224万8000円と比べても、3.8%しか減少していない訳です。自動車や大型家電が売れない、 新築住宅の着工戸数が減少しているといっても、収入の落ち込みに比べれば日本人は消費支出をしっかりしていたと言えるのではないでしょうか。

 もっとも、消費の内容は変化してきており、「モノ」を沢山買う方向ではなく、日常生活にお金を掛ける方向とか、あるいは人づき合いとか体験、 思い出など、「コト」への支出額は若者世代を中心にして増えています。
これについて、「モノを買わない理由」としては、「モノを消費することへの罪悪感や抵抗感がある」という意見がありました。 もちろん、この先の収入が増える見込みがあまりないからモノを買わないという意見もあるようですが、何よりモノを買うこと、 不要なモノを所有することへの抵抗感や罪悪感のようなものが増している印象です。 昨今は、モノを捨てるのにもお金がかかる時代になっていることも関係しているのではないでしょうか。

 さらに、今の若い層は、何を持っているかよりも、どういう経験をしてきたとか、どんな人脈を持っているか、又は人間関係が充実しているか、 自分の引き出しをいかに沢山持っているかを重視する傾向が強いので、そういう方面にお金を使いたいという人が増加しているのです。 旅行に出かけるとか、人づき合いに使う消費では、当然ながら「モノ」は増えません。一方、「コト消費」については、 自分の人間力のようなものが蓄積されていくので、罪悪感や抵抗感は抱きにくいと思われます。 この傾向は、よほど先の見通しがドラスティックに変わらない限り、反転するということは起こらないのではないでしょうか。 実際、アベノミクス相場の株高による資産効果で、高級品市場は活況を呈しましたが、一般の消費者にとっては給料が急に上がる訳でもなく、 むしろ円安でエネルギーや食料中心に物価が上がり、さらに消費税増税もいずれあるという中では、 容易には財布の紐が緩んで異変が起こることはないと考えるのが妥当なところでしょう。

 また、バブルが弾けて25年も経ち、その中で成長して堅実な消費スタイルを身につけた年代の人達が、 結婚して消費の担い手になっていくことを考えると、現在の傾向は今後も長く続くと見るのが穏当なところではないでしょうか。 しかし、上記で見たように「カネを使わない」という訳ではなく、自分の気に入ったものには惜しまずにお金を使うというライフスタイル、 いわゆる「プレミアム消費」が、20年間にわたり現在まで一貫して増加トレンドにあります。 たとえこの先収入が減っていくとしても、気に入ったところには使いたいということでしょう。 より安いものを求める消費スタイルは、現在ではむしろ減っていて、厳選した質の高い消費生活を送りたいという意識が高まっている訳です。 贅沢ではなくても自分が気に入った、自分らしいものを求めるということなのです。これは老若男女を問わず、共通する現象として見られます。